2013年09月16日

「白き鉄(かね)を鳴らして」 中編 byこくまろ 特殊更新

目が覚めるとはなんだろう。
まばゆい光が俺の正面にあった。
手を伸ばせば届きそうに思えた。
だが届かないだろう。なぜなら、俺は死んだのだから。

「おかえり、地獄という名の現世へ」

その低い声に、肩がびくりと震えた。
がばっと上体をあげて、瞬きをした。
目線を落とした。俺の両手がある。両足がある。身体がある。
俺は、生きている・・・。

「自分でも不思議なのだろうな。感謝しろ、己の悪運の強さに」

病室だった。俺は白いベッドにねかされていたのだ。
服も白衣に着替えさせられているが、深い傷はなさそうだ。

自分の無事を確認してから俺はゆっくりと右側に首を回す。
すると見慣れた連邦の制服を着た壮年の男が、
パイプ椅子に座ってにたにたと笑っていた。

「キサネ少佐・・・・・・」

キサネ・サレ少佐。
あの横浜基地のお偉いさんの一人だ。
奇抜な作戦を好む変人で有名だ。何より、腹が読めない。
ともあれ、少佐は笑みを止めると、手を脚の上に組んで言った。

「やはり君が適任だ。何しろ、私がこの部屋に立ち寄って、
三分も経たずに覚醒したのだから、運命と言わざるを得ない」

何を言っているのだろうか。俺は眉間に皺を寄せて不快感を顕にした。
「俺は、いえ、あれから何日、部隊は、ではなくて状況は」
「質問は整理してから発言したまえ」
口に出して始めて、俺は混乱の渦中にある自分に気づいた。
何から訊くべきか迷った。
しかし、何を訊いても、どうせ予想通りの答えが返ってくるだろうと、
諦念した自分もいた。それでも確認せねばならない。
言葉を紡げずにいた俺に、少佐は先に、丁寧に言う。

「君の居た小隊は君と副隊長を除き戦死。敵機は目標を発見できず逃走。
 これがあの夜の出来事の全てだ」

驚きが重なり襲う。
撤退命令を聞き、場を離れようとした味方も居たではないか。
それに、目標とは一体。

「みな腸が煮えくり返っているよ。何せおびき出したものの、罠の全滅という
最悪の結果で締めくくられてしまったのだからな」

俺は湧き上がる怒りを押さえ込み、わざとため息をついた。
「やはり奴を引き寄せたのはこちら側だったのですね」
「いかにも」

おくびにもださず少佐はうなづいた。
「博覧会の展示に、HG(ハイグレード)サテライトキャノンがあったのを知っているか?」
俺は記憶をたぐり寄せる。確かに、パンフレットに載っていたが・・・・・・。
「ええ、レプリカ品がクォートビルの広場に・・・・・・」
そこまで言って、漸く気づいた。
「・・・・・・本物だった、というわけですか」

しかし少佐は首を横に振った。
「まさか。偽りの情報を流しただけだ。本物は今も札幌基地に隠してある」
嘘実しやかな情報にも拘らず、奴はそれを奪いに来たと言うのか。
「奴は、あのグフは何者なんですか?」
「さてな。どこかのレジスタンスに所属しているかもしれないが、いつも一匹狼を
気取っている、正体不明の化物だ。奴は連邦の部隊を襲っては、高性能装備を奪い、
着実に力をつけている。今では君も知るとおり、MG(マスターグレード)に匹敵する
性能と類希なる操縦センスで我々を蹂躙している」

俺は天井を仰いだ。
敵の最終目的はわからない。
だが今の奴は、己を強化する、ただその為だけに、多くの俺の仲間を殺した。
ふざけていやがる。

「上層部は、奴の掃討にハイエンドのガンダムタイプMGを4機投入すると決定した」

俺は耳を疑い、顔を少佐に戻した。なんだって? 
「幾ら改造機であっても、相手はHG一機ですよ?」
「ああ、その通りだ。しかし、奴にスクラップにされたMGの数は目も当てられないほどだ。
 もし本物のHGサテライトキャノンが奪取されようものなら」

その言葉に、俺は一瞬気が遠くなるのを感じた。
あれ程のグフが、都市を割るとまで言われる破壊兵器を手に入れたら。

「一昨日、何者かが連邦のサーバーにハッキングをかけたらしい。上はブロックに成功したと
 公言しているが、間違いなくあれの隠し場所が知られたのだろう。故のガンダム投入だ。
 しかもご丁寧に札幌基地に配備させた。これでは情報が真だと裏打ちしているようなものだ」

少佐はくっくと笑った。俺も、肩を落としながらも口角を上げた。

「ですが、ガンダムタイプMGを4機も揃えれば、心配は無用でしょう」
「全くだ」
しかし少佐はそこで笑を止めた。肩が、僅かに震えているように見えた。
「大人気ない。誇りがない。美学もない」

少佐は右掌で顔を覆い、更に低い声でつぶやいた。
「ガンダムは英雄であるべきなのだ。
改造しただけの格下のHG機体を、数を揃えて叩こうなど、
プライドの欠片も見当たらない下品な行為だ」

違う。それは違う。勝たなければいけない戦いなのだ。
奪取されようものなら、これまでとは比較にならない被害がでる。なら、出し惜しみなど
していられるはずもない。誇りや美学で語ってはいけない問題なのだ。

・・・・・・それでも。頭ではそうわかっていても、俺にもわだかまりが残っていた。

「せめて一騎打ち、もしくはHG機で挑むべきです」
俺の小さなつぶやきに、少佐は即座に反応した。
「そうだ。MSとはロマンだ」
すっくと立ち上がり、少佐は俺を見下ろした。
「私は信じている。MGがHGに劣るはずがないと。一対一でも必ず勝てる相手だ」

それはどうだろうか。
奴の強さは尋常ではなかった。この国のガンダムタイプとエースパイロットでさえ、
あれをサシで討てるかは疑問だ。

「勝って見せてくれないか」

その少佐の言葉が、誰に言っているか、一瞬わからなかった。
だが、この病室には俺と少佐しか居ない。

「・・・・・・まさか少佐、俺にあれを討て、と?」

少佐はにやりと笑った。
「ガンダム乗りどもは十中八九、奴を侮る。
改造とはいえ量産機、スペック差は比較にならん。その上一機。
甘く見た連中が各個撃破されて敗北する可能性は、決して低くはない。
だが、君は奴の恐ろしさを知っている。怒りを覚えている。
敵討ちの義務がある。何より、五体満足で生き残った悪運がある」

「なら、副長の方が・・・・・・」
「彼は」少佐は冷たく言い放った。
「逃走中に背を撃たれて、戦意を喪失している。戦線復帰は絶望的だ」

俺は黙った。適任だというのか。この一介の兵士でしかない俺が。

「でも、俺はガンダムタイプの搭乗経験がありません。ザクでは・・・・・・
 奴に勝てません」

「それはどうかな。言ったはずだ、MSとは、ロマンだと」

少佐は俺に背を向けて、出口へ足を進めた。

「付いてこい。君をわざわざこの群馬県の病院に収容した訳をおしえてやる」

群馬県?
疑問を浮かべながらも、俺はサンダルを履いて、先に出て行った少佐を追った。

エレベータに乗り、地下へと向かう。

「此処は表向きただの附属病院だが、地下では廃棄されたMSの残骸が集められ、
日々研究が行われている」
「何故病院で?」
「病院なら襲われにくいという理由だろうが、詳しく知る必要はない」

エレベータは地下五階で止まった。ドアが開くと、オイルの匂いが充満していた。
そして傍にいたツナギの男に、少佐が一言告げる。すると彼は俺たちを誘導した。

「君のザクは大破していた。しかし、コックピット周辺は無事だった。
 だからゲンを担ぐ理由も含めて、その部分などは使わせて貰っている」

通路を進むと、分厚い隔壁に阻まれた。ツナギの男は、パスコードを入れてそれを開く。
俺の前を歩いていた少佐は悪戯ごとを思いついた子供のような顔で、言った。
「さて訊こうか。君はこいつで、ロマンを描いてくれるか?」

隔壁の先に存在した格納庫でそれは俺たちを、いや、俺を待っていた。
純白の翼を背負い、ジオン製の鎌を持ち、謎のカラータイマーを胸にし、それでも―ー

見覚えのあるツラのままの、ザクが。
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(後編につづく)
posted by 漢字中央警備システム at 12:53| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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